漣(さざなみ)農業日記

農業によせるさざなみから自分を考える

今押し寄せる波は、さざなみなのだろうか、荒波なのだろうか。

農業を継ぐ人

 農業の経営としての形の多くは家族経営です。
 「経営体」と国が主張し始めたころ、農業も法人化するべきだという方向が出されました。家族経営であっても、法人化することで、次の世代に確実に経営が伝わると考えたのかもしれません。しかし、一方で農業の法人化という点に大きな疑問点がだされています。一般の企業原理に基づくようになると、経営原理が貫徹されることで、「国民に対する責任ある食料供給」という役割が果たせなくなる状態が生じるのではないか、つまり、生産費をカバーできず、つぶれる経営がでてくるのではないかという危惧です。

 また、農業という職業は自らのアイデアを活かしたいわば「こまわりのきく中小企業の経営者」という部分に面白さが感じられるという方がとても多いのです。新規参入事例では特に感じられます。こういう場合は、経営体としての大きさや企業原理の貫徹は大きな問題とはなりません。

 現場の普及指導員は、企業として農業経営を成長させることを考えると同時に、アイデア豊富な次の経営者を育てていく必要があるのです。

 昔は「家業」としての農業がほとんどだったので、「農業を継ぐ人」は家族の一員でした。後継者に農業に対する関心をどう持たせ、かつ早期に自立させるかという点が大切なことだったので、普及員をしていた私は、当時3つの事例から、後継者の自立を後押しする親の考えを紹介しました。

 一つは後継者に早期に通帳の管理をさせた事例、一つは親と離れた農場で研修をさせた事例、一つは他産業を経験させた事例の3つです。そして次のようなポイントに整理しました。

第1 職業としての農業に自信と希望を持たせるような親の姿勢
・・・・経営的には苦しくても、生きてゆく価値を農業の中に見出し、前向きの姿勢でやっているか。そういう親の姿勢を子供はじっと見ています。・・・・
第2 親の持っている技術や経営の状況を確実に伝えること
・・・・まず、親自身のもちものを伝える。しかも、子供はなぜそういうやり方をし、そういう結果になるのかを知りたがっています。・・・・
第3 一定期間、自由な修業期間を与える
・・・・「やっと働き手が増えた。」労働力の単なる補充という扱いを子供は嫌います。自分の考えで勉強したい。もっと余裕が欲しいのです。自信と責任がでてくると思います。・・・・
第4 仲間とふれあえる状況をつくってやる
・・・・「また四Hに行くのか。」親の白い目に送られながらもでかけてゆく。それは仲間から受ける刺激と経験が欲しいからです。それは必ず役に立つはずです。・・・・
第5 経営の中で一定の責任を持たせる
・・・・責任を与えられるということは、なんてステキなことでしょう。自分の子供を信頼しぬくことが大切です。でも子供の能力を見抜き、適切なアドバイスは欠かさずに。・・・・
第6 対等な、なんでも話し合える家族関係をつくる
・・・・経営の問題を俺にも相談してくれる。これがうれしいんです。一日の反省、作期ごとの反省、年間の反省。いっしょにやって記録してゆくことが主張のある経営者をつくります。・・・・
第7 目標をもって経営権の委譲計画を立てる
・・・・いったいいつごろから子供に全経営をまかせるか。5~7年計画を自分でたてて、手伝い(自分の技術を伝える)→一部を任せる→全部を任せるという具合に、毎年状況を見て修正しながら行う。・・・・(メモリー 普及活動レポートより)

 さて、今の現役世代では、農業を家業として次に継がせるということは絶対的なミッションとはなっていないようです。親が戦後の民主主義教育を通り抜け、農村社会も想像できないくらいの大きな変貌がありました。こういったことがその原因ですよね。親は一歩引かざるを得ない状況です。しかし、私が見ている限り、農業・農村を継ぐ人は必ずムラに帰ってきています。これは事実です。そして、これらの人に着実に農業を継いでもらうということは、とても重要なことです。新規参入の若者や企業だけに農業、農地のすべてを担わせることは不可能だからです。もちろん、ムラに帰ってくるのは若者ばかりではないでしょう。しかし、どのように次の世代の「農業を継ぐ人」をつくっていくのかを考えるときに、この7つのポイントは、現代でも重要だと私は考えます。