漣(さざなみ)農業日記

農業によせるさざなみから自分を考える

今押し寄せる波は、さざなみなのだろうか、荒波なのだろうか。

つないでいきたい・・農村の組織活動

 2015年5月の「漣」の巻頭言は、君津市の榎本冨美雄さんが書いてくれた。内容は、千葉県ではじめてできた君津市の認定農業者協議会についてである。1995年に榎本さんが中心になって設立された協議会は、この年20年がすぎ、消費者と連携する農業を柱に次々と新しい試みを展開していた。
 もっとも有名になったのは、エダマメの収穫祭である。1本の荒縄を500円で求めていただき、束ねられるだけ収穫してもらうというイベント。250aの収穫がわずか2日で終了した。また、地元の小学生、市民を対象にした稲作体験を実施し、収穫したお米を市内全部の小学校の給食一食分を贈呈。また市内郵便局長から提案された市内農産物、加工品の宅配事業「フレッシュボックス」事業も始まる。消費者から注文を受けたフレッシュボックスを、郵便局員が配達してくれるという仕事で、2005年には3000ケースを売り上げたという話しも紹介してくれた。

上昇一途の君津市の認定農業者

 先週、今は次世代に活動を譲っている榎本さんに話しをうかがったが、農村での組織活動を継続する難しさが垣間見えた。コロナ禍の影響でしばらくやれなかったエダマメ収穫祭が4年ぶりに昨年行なわれたが、播種の深度が不十分で夏の暑さも予想以上だったせいで、エダマメの勢いが草の勢いに負けてしまい、充分な生育にならなかったらしい。それに加えて、当初荒縄1本500円で始めたイベントの料金も値上げしたため、参加者の評価もあがらずに、苦情も寄せられたということだ。
 榎本さんは、イベントは「儲けよう」と思ったらダメという。「農家の思い」を市民に伝えるためにしていることが逆になってしまったと話す。
 稲作体験は、5年生を対象にした形で継続しており、お米は「君津のコシヒカリ」を全小学校へ給食一食分届けられている。フレッシュボックスの事業は、地元の郵便局員が、郵送で使うトラックを活用して運んでいたが、傷んでしまう農産物もでてきて、クレームが寄せられ、現在は行なわれていない。事業は、農協が「まごころボックス」という名称で受け継いだが、あまりアピールせず伸びていないようだ。

 このように、ある意味華々しく展開していた組織活動はちょっと壁にぶつかっている印象を受けた。榎本さんに、なぜ、こういった活動を始めたのか聞いてみた。


 いちばん大切なのは、君津市には水稲、野菜だけでなく、鶏卵、酪農、花きなどいろいろな生産者がいてこれらすべてが集まる組織がほしかった。自分たちの思いを集めて、胸を張って農業ができるために、行政などにも意見を言っていく、そして無視されることなく聞いてくれるそういう組織が必要だと思った。


 話を伺っていて、当初ねらった組織活動にはなったと思うが、現在はその「形」だけが次の世代に伝わっていて、「思い」は必ずしも伝わっていないように感じる。次を受け継いだ人たちは「形」だけを受け継ぎ、「思い」を受け継ぐことはできないと思う。「受け継ぐ」組織活動ではなく、「創り出す」組織活動へと常に変化していくことが重要に思えた。組織の構成員は変化し、したがってその背景にあるそれぞれの事情や思いも変わってくる。受け継いだ今の活動は、自分たちにとってどういう意味があるのかについて、受け継いだ世代の今後の議論を期待したい。