漣(さざなみ)農業日記

農業によせるさざなみから自分を考える

今押し寄せる波は、さざなみなのだろうか、荒波なのだろうか。

体験農園は順調

 市川市の清水浩大さんのお宅は、松戸市との境にあり、典型的な住宅街。しかし、そこにはまだ意欲の高い農業者が頑張っています。10年前に清水さんは農業ミニコミ誌「さざなみ」に寄稿してくれ、ご自身が始めた体験農園について紹介してくれました。

彼の始めた農業体験農園は、「清水菜々園ほがらか塾」といいます。開園は、東日本大震災の起きた2011年です。体験農園のシステムは、東京都練馬区で行われていたものを参考にしてつくりました。寄稿記事の中で清水さんがこの農園について紹介している文章を引用します。

 

「農業体験農園は、農家が作付けの計画をして、農具、資材、種苗、肥料を用意し、講習会と実演で指導をします。市民は手ぶらで種まき〜肥培管理〜収穫までの野菜作りが楽しめます。できた野菜は全て入園者が買い取るしくみです。」

 

 具体的に見てみましょう。

 1区画は30㎡(3×10m)で、園主(清水さん)が畑を9分割して畝を作り、どこに何の野菜を作るのかを計画し作業日程も決めます。講習会を金、土、日曜日、同じ内容を1週間に3回行い、春に10週、秋に8週と計54回開きます。これを受けて入園者は自分の区画畑で作業を開始するというわけです。収穫した農産物は各自家に持ち帰ります。入園料は1区画46,000円です。

住宅地の中の清水菜々園と講習のホワイトボード

 10年を過ぎ、この体験農園は今どうなっているのかを知りたくて、先日農園におじゃましました。3月初めだったので、ほとんどの野菜は植え付け前の状況でしたが、広々としてきれいに区画された畑が、住宅地の中に広がっていました。当初50名から始めた農園は、現在では103名となっており、引っ越しする人や年齢のためにリタイヤ―する人もいるそうですが、この割合は10〜15%程度で、引き続き利用する人が多いようです。利用者は近隣の市川市松戸市が中心ですが、都内から電車で来る人も多く、当初からの利用者が半分くらい続いているそうです。かなり着実に発展してきているという印象を受けました。

 

 この体験農園の取り組みはとてもユニークなものですが、ものづくりの面白さというのは「自ら計画する」ことなのではないかと私は思います。人が作った作付け計画にしたがって生産することに関して利用者の不満はないのでしょうか。この点について聞いてみたところ、毎年アンケートをとって若干内容を修正する場合はあるが、なかなかすべてには応えられていない。システム的に見ると、「自分で計画して生産したい」という形は、現状の体験農園の形にはなじまず、コンセプトが異なってしまうのでしょう。利用者の目的は、手軽に自ら農産物を生産し、それを味わうところにあり、農家はこの利用者の欲求実現をサポートするところに体験農園の意味があるのだと思いました。そして農家は、これにとりくむことにより、景観的に農地を保全し、同時に自らの営農の場を確保し、消費者に農業をより理解してもらうための道筋をえることができるということですね。

 始めた当初、他の農園で体験してきた方と初めての方との間で多少問題が起きたことがありましたが、「となりの区画まで誤って収穫してしまった、どうしたらいいか」という相談を受けたくらいで、利用者同士のトラブルはほとんど見られないようです。

 

 体験農園に取り組む農園は今では岩手県から福岡県まで全国で160を超えるということです。県内においても、松戸、習志野船橋などの東京近郊中心に9つの農園があります。10年前、清水さんが書いてくれた記事には、「長男が大学を卒業後会社勤めすると決めたことを契機に体験農園開設の準備を開始しました。」とありましたが、その長男の方も10年間勤めて退職し、現在では張り切って就農しているそうです。毎年、50日以上の講習会の準備をし、農園での生産状況を把握してサポートすることは容易ではないでしょう。しかし、都市の有利性を活かしたとても素晴らしい取り組みだと改めて感じました。