漣(さざなみ)農業日記

農業によせるさざなみから自分を考える

今押し寄せる波は、さざなみなのだろうか、荒波なのだろうか。

よそから農村に人がはいる・・安西さんの話のつづき

 安西さんの経営は、ここ10年くらいの間に大きく変化したと言えそうである。一つは販売先の多様化による生産品目の増大である。面積も大きくなったのだろう。なにしろ、トウモロコシは現在2ヘクタールも作っているらしい。しかし、この変化よりも大きいのは、経営を支える労働力である。安西さんも10年前は、家族労働力中心だった。しかし、経営の多様化を目指そうとすれば、どうしても手が足りなくなる。現在は、安西さん以外は従業員4人を雇用して生産している。しかも、この4人は全員他からの移住者とのこと。このおかげで、経営について多様な展開を目指せるようになったという話しである。家族だと甘えもでてきて、自分がここまでやりたいという水準まで到達しないということがあるが、仕事は確実にはかどるということだ。
 4人いれば、その人の能力や仕事の段取りなどを考えて適切に仕事をわりふらなければならない。農家は工業とは違い、ここが経営者能力というやつを問われるところだと言う。

 ここで面白い話。2019年の台風で南房総の人の流れに関して画期的なことがあった。それは、ボランティアというものがはじめて動き出したことで、これを契機によそから農村に人がはいってきたことだ。農村において、他人に仕事を手伝ってもらった場合は、必ずお返しをしなければならないというしきたりは染みついたものだ。安西さんが、ボランティアの受入の切り盛りをしたとき、農家は「何をしてもらい、何を返したらいいかわからないからウチはいいや」という意見があって、受入農家の数は少なかったらしい。ボランティアの仕事についていうと、能力から言えば半分以下だろう。でも、わざわざ来てくれたことに価値がある。来てくれたことで、新しい風も吹くのである。災害だけでなく、農村ではよそから人がいつ来てくれても、受入ができるように仕事をできるだけマニュアル化しておくことが大切だと思ったようだ。


 よそから農村に人が入るといえば、安西さんは、大学生の受入にも熱心である。今年から東大はじめ、12の大学がきているとのこと。中でも、明治大学は、2019年から5年間毎年定期的に訪れ、安西さん自身も臨時講師をつとめる。大学生は卒業しても遊びに来てくれるらしい。恐らく大学の方も現場に即した教育をしたいと思っているのだろう。しかしなかなかそういう関係を持つことが難しい。気軽に遊びに来てくれることを歓迎してくれる安西さんとの関係は貴重なものだ。農村でも、彼らが新しい刺激を持ってきてくれることで、農村の活性化につながるかもしれない。
 では一方、現在の農村の状況はどうなのかということを聞いてみた。ここレタス産地の館山市神戸地区でも、後継者不足が顕著で、レタスを作らない耕地がふえているらしい。

みごとな冬レタス、作らない圃場もでてきた(神戸地区)

 安西さんが住む集落については農業度が高いが、ここには過疎農村とはちがった悩みがあるらしい。
 本来なら今後のために、誰でも農業に取り組めるように農地を集積し、必要な基盤整備をすすめるなどの条件作りが必要だが、親はよく働き、何でもできるのでなかなかすすまず、世代交代も進まないということらしい。次へつなぐことを真剣に考える時期だと思った。