漣(さざなみ)農業日記

農業によせるさざなみから自分を考える

今押し寄せる波は、さざなみなのだろうか、荒波なのだろうか。

地域に自分の経営をおいてみる

 家業として農業を継ぐ人も、新規に参入して農業に挑戦する人も、絶対に忘れてはならないことがあります。それは、本来農業は「個人」というレベルでどこまでも成長していくというものではなくて、その立地する場所と深い関係を持ちながら、発展していくものなのです。だから、自分が営農する地域を深く知ることが大切です。そのための一つの方策として、仲間や集団でのプロジェクト学習を進めることは意義深いものがあります。

 私自身がまだ青年だったころ、就農したばかりの青年たちを集めて、一定のカリキュラムのもとに研修を行いました。就農したばかりの段階では、やっと自分の家の農業についていくのがせいいっぱいです。隣の家がどんな農業をしているのかもわからず、同じ市内での農業の特徴についても深く知りません。私はそういうときこそ、集団で学び合うことが必要なのではないかと感じ、「地域の農業を知るプロジェクト学習」を毎年行いました。就農したての何年かがもっとも大切だからです。このころは親も若いため彼らに依存する割合も小さく、時間的ゆとりがある時期です。青年の考え方も柔軟で、客観的にまた多面的に、農業経営について考えることができます。また、仲間からの刺激により大きく変わる時期でもあるからです。

 自分がこれから取り組む農業の形は、自分が生きていく地域の中でどのような意味を持つのか。地域という大きな範囲の中に自分の農業を位置づけ、適切に判断していくことを、仲間たちとの共同したプロジェクト学習で学んでいくという経験は、とても重要です。年齢が進んでいくにつれ、なかなかそういう機会が持てなくなります。そういう考えからこのような学習活動をこの時期に組んだのです。

 40年ほど前の研修で取り組んだ「共同プロジェクト学習」をそういう観点からもういちど見てみたいと思います。この学習では、地域の農業を知るために、内容により7つのグループに分けて調査項目を作り、同じ調査を親と子、それぞれに対して行い、いくつかの班では、再度面接調査をして内容を深めました。

先輩はみんな進んで農業をやったのだろうか。

 学習した就農青年はほとんどが親の勧めで就農した。なかなか自分で農業を選択した人はいない。調査活動を進めていく中で、親の考え方と子の考えが一致し、農業に取り組んでいる先輩に聞いてみた。

 やはり農業は、やりたくなかった。友達が休みの日に車に乗って遊びに行くのを見てうらやましいと思った。俺は、トラクターに乗って畑の耕耘で、その横を友達の車が通るとつらく、恥ずかしかったそうです。高校を卒業して茂原専攻科にすすみました。そこでの友達はみんな農業をやる気になっている人ばかりで、農業をやる気になったのは、この頃からだそうです。専攻科の先生・友達といっしょになって勉強でき、ほんとうによかった。だんだん農業に興味を覚え、自分で勉強する気にもなってきた。学校へ行きながら、もうひとつの楽しみがあった。それは市場の野菜の売上金を取りに行くことでした。その頃は、まだ1万円札を何枚も持ったことがなく、今日は、かなり入っているなとか、封を開けるのがすごく楽しみだった。この頃から欲がでてきた。卒業後は農業一筋でがんばった。
 農業が楽しくてたまらない。どうすれば収入が上がるかを考え、親とよく話し合っているみたいでした。そこのところからアンケートの答えが一致した理由が分かってきたのです。(メモリー 普及活動レポートより)

我が家は市場へ個人出荷しているけど、共同で出荷するメリットは?

 産地が各地につくられる中で、共同の出荷場をつくって、出荷に関する経費を低減する試みが増えてきたころである。しかし都市近郊では、市場が近いせいもあり、小回りの利く個人出荷の割合が高く、就農青年のほとんども個人出荷だった。

 I市の共同道果場では、梨の完全共販をしています。
 近年新品種の更新が叫ばれる中でまだ新品種の切り替えが完全になされてきていないため運営をしていくうえでいろいろな問題点がでてきているということです。
 それには個々の耕地面積にバラツキがあるため時間配分や労働力の問題があり、また技術統一もむずかしく、剪定、土壌管理などによる品質のバラツキもでてきており、個々の味に対する観念もうすれてきていて、よいものでも、悪いものでも出荷してしまえばいいという風なところがでてきているようです。また、共販をしていくということは、人間関係も重視され細かい部分まで注意しないと運営にひびが入ってしまうおそれがある。そのため、ある程度の妥協が必要だともいっていました。
 しかしその反面なごやかさがあり、お互いに梨の品評をすることができ市場においても品質(外観上)の統一ができるということです。(メモリー 普及活動レポートより)

これからどんどん都市化が進むと農業はできなくなってしまうのではないか

 調査地域は東京に隣接した地域で、青年たちの感覚も敏感なものであった。調査では、薬剤散布がやりにくい、犬、子供による畑の被害、日当たりが悪くなるなどのほか、野鳥による被害、盗難の続発、畜産の排泄物処理などが挙げられている。今後の考え方について、先輩農業者に聞いてみた。

「この辺りは調整区域なのであまり都市化は進んでいないが、都市化が進んでも、その中で生きてゆける農業が理想的だ。新住民は新住民、農家の人は農家の人と分かれているのではなく、お互い理解し合って、その上に農業が成り立ってゆけたら。」ちょっと難しくてよくわからなかったが、新しい考え方で、とっても新鮮だった。(メモリー 普及活動レポートより)

 地域の中に自分をおいてみることで、今後の方向が見えてくることが多くあります。なぜなら、農業は地域に根付いた形でなければ発展できないからです。若い時代だけでなく、経営者としての経験を重ねていく中においても、このような姿勢で生きていくことで、次の展開をはかることができると考えます。