農民主体で築いた直売所の明日
千葉県は全国的に見て、農産物直売所の数は多いのだろうか。統計的なことは不明だが、夷隅町に今から32年前にできた「ごじゃ箱」は、農民自身が共同でつくりあげた直売所として私の記憶に強く残っている。
中心を担った最首博之さんは農業ミニコミ誌「漣」の取材に対して次のように語っていた。
この夷隅地域というのは、県内の他の地域と比べると、岬のナシを除けば産地という産地がないんですね。農家にとっては地域にある弱小の出荷組合を頼って販売しても、大きな発展は望めなかった。だから自分たち自身で売るという選択肢しか残っていなかったのだと思います。
こうして16人でスタートした直売所は年々売り上げを伸ばし、インタビューした当時は取扱高で2億1千万円を超え、地域ではなくてはならない存在になっていた。このとき直売所が地域の農業者にとってどんな役割を果たしているかと聞いたところ・・・・、
会員数の1割強を占める専業農家にとっては、市場出荷と異なり、値崩れせず、自分の商品に対するお客さんの評価・反応をじかに素早く感じ取れる場所ができたこと、兼業農家の人たちにとっては、今まで人に分けていたものを販売することができ、定年になって家に帰ってきて、販売する場所ができるようになった。この方たちが定年になって帰ってきて、販売できる場所ができたのです。


取材したとき、最首さんは「ごじゃ箱」が次の世代に確実につながっていくのではないかという予感を持ちながら、インタビューに応じてくれていたように見えたが、それでは10年ほど経た今の状況はどうなのか、率直に聞いてみた。取扱高は現在1億7千万円ほどでかなり減少し、出荷者の数も正確にはわからないが、400人弱だった出荷者は、現在は280人ほどとなっているらしい。大きな壁に当たっている印象である。
主力となる専業農家が高齢化などでリタイヤ―し、期待した定年帰農の生産者ではこれをカバーできていない。消費者が期待する「品質のいいもの」を作る人が減っています。全体として直売所に以前感じられた覇気が感じられないのです。このように力のある生産者が減っていく中では、何を主力にして直売運営をしていけばいいか教えてもらいたいですよ。毎日考えているのですが・・・・。
マスコミでよく取り上げられる移住者の力はどうかと聞くと、移住者は15〜6名がごじゃ箱の会員となって、加工品や野菜などを出荷してくれているが、直売所全体の品ぞろえに貢献できるまでの存在にはなっていないという。結局、最首さんをはじめとした役員が、全体の品ぞろえを見ながら、例えば今どきのネギが少ないなと思えば、それをつくるなどの対応をしているというのが現実である。
加工についての法改正も直売所の足を引っ張っている。今までは、中心となるリーダーが弁当などの人気商品をつくり、固定客がついていたのだが、これが高齢化によるリタイヤ―。新しい人が加工に取り組もうと思っても、今までは不要だった漬物加工さえ許可が必要になり、ハードルが非常に高くなっている。農家の持つワザと技術にふれることができるのが、直売所であるが、客観的にもその意欲は年々そがれてきている現状だと感じた。
「ごじゃ箱」のアピールのため、今若い人たちの手で、毎日、直売所のインスタグラムを更新しているそうである。若者は若者なりに、今まで作ってきた方法とは別に次の道を探り当てようとしていると感じる。
最首さんは「大原は、千葉県では有数の漁港だし、週に一度の港の朝市にはたくさんの人が集まっている。この魚を活かした運営ができないだろうか」と語る。
なるほど、大切な資源がすぐとなりにあるではないか。今は、それぞれ別々の存在であるが、これがコラボレーションすることで、本当に地域に根差した大きな取り組みが生まれ、「ごじゃ箱」にも夷隅という地域にも、明るい展望が開けていくのではないだろうか。次の世代に確実に受け継がれていくことを期待したい。